Endo Laboratory

特別推進研究(平成19年度〜平成23年度)


研究チーム

  • 代表:遠藤 守信教授
  • 信州大学工学部
  • 信州大学医学部
  • カーボン科学研究所メンバー

研究目的及び背景

I. 研究背景
 昨今、カーボンナノチューブ(CNT)などナノサイズの炭素体に関わる科学と技術が顕著な発展を遂げている。中でもCNTはその基礎科学と応用においてナノテクイノベーションを牽引する重要素材として、新規半導体から先端複合材料、医療・バイオ応用など広範な分野で新技術と産業創出の観点からも大きな期待がかけられている。本研究代表者である遠藤教授は、超微粒金属粒の触媒作用によって中空チューブ状に成長するいわゆるCNTの存在と成長モデルを示し(J. Cryst. Growth 322, 335, 1976)(図1)、成長機構を提案して証明するとともに工業化の道を拓き、実際の産業応用も開拓した。これらの実績は、今日のCNT研究の進展に大きな貢献を果たし、応用発展の力となり、国際的にも高く評価されている。特にLiイオン電池の添加剤として実用が展開され、CNTの科学・技術的貢献を果たしてきた。さらに小山教授(信大医)と遠藤教授は共同して新炭素体の生体影響についてこれまで10数年に亘って研究推進し、その成果を踏まえてCNTの生理学、免疫学的評価を世界に先駆けて実施した。成果はCarbon誌のCNT毒性についての特別号に招待論文として発表し、さらには、世界最初の抗血栓性マイクロカテーテルの開発に結実している。
しかしながら21世紀の基盤技術としてのCNTの発展のため、ナノテク先導材料としてCNTの科学と技術における更なるブレークスルーが今、熱望されている。
CCVDtube bio
図1 CCVD法で生成されたCNT 図2 生体適合性とCNT構造の相関性


II. 研究目的
 本研究はこれらを背景に、カーボンナノチューブ(CNT)の科学と技術でブレークスルーを果たし、『21世紀は炭素の時代』を実現する上で大きな力となるべく、基礎科学と応用の広範な分野で世界を牽引する飛躍的成果を目指す。
 具体的には、二層および多層CNT成長の精緻な成長と構造の制御法開拓とその成長メカニズムの解明、それらの選択成長法を中心に研究し、これまで多層CNTで実現した様に『浮遊触媒法』によって高純度・選択的に二層のCNTなどを生成する方法を開拓する。遠藤教授のオリジナル技術に最新の成果を加えて研究推進し、得られた高純度サンプルの構造制御法や電子機能解析の検討を進め、さらに構造制御されたCNTを用いて生体適合性も含め、CNT科学と応用技術の飛躍的発展を意図し、CNTの科学と技術の発展に貢献する。


研究テーマの概要

I. ナノ触媒粒子が二層、多層CNTを形成するメカニズム(基板、流動床、浮遊触媒法に関して)の解明
鉄を中心に各種金属触媒と成長温度、ガス流速などのナノチューブの成長条件と成長するCNTの構造と関連した成長機構の解明をすすめ、ことに遠藤教授独自の実績を持つ浮遊触媒法におけるチューブ形成メカニズムと構造を明らかにする(図3,図4)。
CCVDmodel f-cvd
図3 CCVD法によるカーボンナノチューブ(CNT)成長のイメージ図 図4 浮遊触媒法における成長機構のイメージ図


II. 成長を制御し、二層・多層のチューブ構造の精緻な制御法、高効率・選択成長
CCVD法の基板法によって二層CNTの選択的形成法を確立したが(M.Endo et al., Nature 433,476(2005)、その成長機構と触媒機能の解明を行い、遠藤による多層チューブ大量合成法と同様に浮遊触媒法に発展させることで二層CNTの大量合成への道を拓く(図3)。第二触媒の存在などによる選択的成長促進法についての検討、分子動力学(MD)法による二層、多層構造の成長機構の成長シミュレーション(図5)、二層構造の形成要因のモデル化を行い、最適な触媒源や炭素源の選択に繋げていく。
ferro-model
図5 例えば鉄触媒原料のフェロセンから
ナノ鉄粒子が形成される過程をシミュレ
ートする事で高性能触媒機能発生要因を
明らかにする
また、課題を検討する上で遠藤らによる触媒を用いないチューブ成長モデル(M.Endo,H.W.Kroto; Formation of Carbon Nanofibers, J. Phys. Chem., 96,6941-6944(1992))(図6)が重要な鍵になる可能性があり、ダイマーC2の導入による五・六員環間結合変換による六員環ネットワーク形成によるチューブ成長法を検討。螺旋構造発現に関して触媒サイズについて解明を行う。
C2-grow
図6 触媒を用いない新規成長機構とチューブ内の節の形成メカニズム
の提案、5員環を含む成長先端にC2が導入されて成長する
(M.Endo,H.W.Kroto; Formation of Carbon Nanofibers,
J. Phys. Chem., 96,6941-6944(1992))


III. 機能解析、ドーピング、インターカレーションなどにより多様な機能を付与

DWCNT-Li
図7 LiやH2のDWCNT束へのExohedral Dopingの挙動解明
DWCNT-F
図8 選択的なフッ素化とフッ素化されたDWCNTの構造モデル
(Endohedral Doping等)の構造


IV. DWCNTの選択成長を浮遊触媒法で確立。内外チューブの螺旋構造の相関性を解明
浮遊触媒法によるDWCNTの高純度、高速成長法の開拓と内層、外層チューブの螺旋構造の相互関係解明とナノ構造の制御について内層と外層の相互関係、チューブ間隙を解析する(図9、図10)。また、DW・MW CNTの電子特性の比較;CNTの構造制御が高いレベルでかつ高純度で生成されることで(基板法では実証済み)、電子デバイスや革新的機能性複合材料などナノテク応用の中心的素材に発展し得る。二層構造が積層による電子特性変調の始点であり、機能性も拡大する。また同一の螺旋ベクトルを有したDWCNTの結晶束が3角格子を形成する成長要因(図10)も成長機構を解析する上でヒントを与える。すなわち、解明が待たれている二層CNTの量子効果発現と電子輸送特性、内層と外層の構造差異による量子性発現機構、その他、二層、多層CNTの化学・物理機能評価(吸着現象等(J. Miyamoto, Y. Hattori, D. Noguchi, H. Tanaka, T. Ohba, S. Utsumi, H. Kanoh, Y. A. Kim, H. Muramatsu, T. Hayashi, M. Endo, K. Kaneko, J. Am. Chem. Soc.(Communication); 128(39) ; 12636-12637 (2006))について総合的な評価、解析を行う。
TEMphoto-DWNT DWCNTimage
図9 基板法CCVDで成長した二層CNTと格子形成したロープおよび格子を形成したDWCNTの均一な断面構造のモデル(M.Endo, Nature, 2005) 図10 外層と内層の螺旋ベクトルの相関、直径の支配要因、二層CNTの完全性の高い3角格子等の形成要因


V. 高純度CNT(二層、多層)のナノ物質固有の生体適合性、免疫反応、毒性評価と材料研究への還元
これまでの成果では、@急性の炎症反応、A肉芽形成、B肺の繊維化、C酸化ストレスによる細胞障害等について明確にした。しかし今までの研究は既知の疾患に対する安全性評価であり、想定外の疾患に対応できない点にある。CNT固有に起こりうるナノ材料個々の特異現象を把握すべく高純度CNT(単層、二層、多層CNT)に暴露したマウスの最長1年間(1、3、6、12ヶ月)の観察(ノックアウトマウスの評価を加える)が必須である。本研究の特長である高純度二層、多層CNTにより本質的な特異性を中心に評価でき、生体影響を最小化できるチューブ構造を提案し、T〜U研究へフィードバックする。


期待される研究成果とその学術上の意義・インパクト

浮遊金属ナノ粒子からDWCNTが選択的に形成され、その成長機構の解明や構造制御法は、学術的には大きなインパクトがあり当該分野の一大ブレークスルーに繋がる。さらにナノチューブの量子効果、物性、機能の開拓や電子、エネルギー分野、医療・バイオ分野への応用が期待できる浮遊触媒法による二層チューブの大量合成法はことに大きな意義があり、遠藤が開拓した多層チューブと同様の世界の産業界からも大きな期待が寄せられている。本研究は基礎科学と応用の両分野で多大なインパクトを提供し、さらに工学と医学が融合した新しい科学の創出、応用の開拓にも繋がろう。本研究提案は、我が国での医工連携研究のモデルとして提案できることに誇りを持っている。言うまでも無く、連携形態をすぐさま形成することは、きわめて時間軸の長いことにご理解いただき、この蓄積された「医学‐工学」連携の実績をご評価いただき、本申請の付加的効果になるものと期待している。そして"ナノテクは越境する"といわれるように、分野を融合した成果を導出できると確信している。

年次計画

平成19年度:
  1. CCVD法カーボンナノチューブ(CNT)の成長機構(基板、流動床、浮遊触媒法を比較)、成長制御(二層/多層CNT)、諸物性解析(磁気抵抗効果など電子機能、表面特性);(使用設備:電子顕微鏡画像スペクトル取得装置、磁気抵抗効果測定装置、CNT生成システム等)
  2. ナノ触媒粒子がCNTを形成する機構の解明(二層、多層構造制御)、CNT選択成長法の開拓。DWCNTの内外チューブ構造、機能の解析。この際生成制御装置(生成機構解明の観察システム)、固有の電子機能評価装置を要す。フォトルミネッセンス、UV等は現有機器をの活用。
  3. 浮遊触媒法についてシミュレーション、実験を併用して基板法と比較して成長機構解明。DWCNTの浮遊法の開拓につなげる。
  4. 触媒を用いないチューブ成長のモデル化や螺旋構造決定要因の解析
  5. 構造や太さの異なる高純度CNTについてプロテオミックス手法(新規調達)による生体影響を生理学、免疫学的知見と比較して検討、ノックアウトマウスによる皮下埋め込み、吸入解析を併用して高純度CNT(二層,多層)の毒性総合的所見を得る(信州大学施設内で実験に着手済み)

平成20年度以降(19年度計画を継続しつつ):
  1. 基板法、流動法、浮遊法によるカーボンナノチューブの特に二層、多層CNTの選択的、高純度成長法の確立と積層構造制御因子の解明、触媒を用いないCVD法の検討。
  2. 量子機能性(バリスティック伝導、縦・横(低温)磁気抵抗効果(ゴニオ機構は独自製造)と螺旋構造の相関性、量子性発現。
  3. 二層、多層CNTのチューブ積層構造の解明(要新規ラマン装置)と規則構造の有無について検討。
  4. 表面機能のコントロールと表面改質(窒素化と官能基付加、DWCNTの外層チューブのフッ素化によるパッシべーション、(要ESCA他)。
  5. 積層構造を制御した二層(多層)CNTロープの合体現象、インターカレーションや吸着現象について構造特異性と関連して解析、CNT welding現象。
  6. 分子軌道計算等による二層、多層CNTの成長機構と成長シミュレーション。スーパーコンピュータシミュレーションによる検討(高度情報科学研究所と共同研究を推進中)。
  7. 吸入毒性と免疫解析に従来医学の範疇による生体影響の解析を進め、プロテオミックスによるナノ固有の現象についてDW,MWCNTの積層構造の差異の検討。総合評価と材料開発への還元、応用提案。


本研究の成果